会社の中のパワハラとその対策について

人事関連情報

今回は入社や異動などで新しい職場に入った方も多い時期ということで、避けるべきパワーハラスメント(パワハラ)について、人事担当者の立場から考察します。

なお、パワハラを考える上では、裁判の判例を参考にするため、表現がやや難しい部分を含みます。
働く皆さんの参考になれば光栄です。

パワハラの定義

まずは、パワハラとは何なのかをハッキリさせるために定義から。
誤解を避けるため、ここでは「政府見解」を参照します。

パワーハラスメントは、組織・上司が職務権限を使って、職務とは関係ない事項あるいは職務上であっても適正な範囲を超えて、部下に対し、有形無形に継続的な圧力を加え、受ける側がそれを精神的負担と感じたときに成立するものをいう。

K事件(東京地判平21・10・15)【労判999号54頁】
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000366276.pdf

厚労省HPより

政府が定義づけるパワハラは以上です。


かなりざっくりしていますよね?
これだけだと、どう捉えてよいのか分かりにくいと思いますので、さらに細かく見ていきます。


パワハラとされる3つの言動(行為)

上で見た定義を分解すると、パワハラは基本的に次の3つを全て満たした言動(行為)とされます。

  1. 優越的な関係を背景とした言動
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
  3. 就業環境が害される言動

それぞれ見ていきます。


「優越的な関係を背景とした」言動

業務を遂行するに当たって、言動を受ける労働者(被害者)が、行為者(加害者)(とされる者)に対して、抵抗や拒絶することができない関係を背景として行われるものを指します。
基本的には、上司と部下など、組織上、上位の者から下位の者に対して行われます


「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動

社会通念に照らし(一般的に考えて)、業務上必要性がない、又はその態様(やり方)が相当でない(やり過ぎな)ものを指します。
これも曖昧なため、判断するに当たっては、↓のような背景を総合的に判断することが大切です。

  • 行為の目的
  • 被害者側の問題行動の有無や内容・程度
  • 行為が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • 行為の態様・頻度・継続性
  • 被害者の心身の状況
  • 加害者と被害者との関係性

判断の際には、個別の事案における被害者の行動が問題となる場合は、その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となります。

なお、被害者に問題行動があった場合であっても、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、当然、職場におけるパワハラに該当します。


「就業環境が害される」言動

行為によって、被害者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。


この判断に当たっては、平均的な労働者の感じ方、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とします。
通常、言動の頻度や継続性が考慮されますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合には、1回でも就業環境を害すると判断される場合があり得ます。


パワハラを3つに分解することで、世の中でパワハラというものがどのように考えられているのか、だいぶ分かりやすくなってきたのではないでしょうか?


パワハラ防止法(の拡大)

労働者をパワハラから守るために、パワハラ防止法(通称)があります。

ちなみに、正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。

この法律で企業に義務付けられているのは、次の4つのパワハラ防止措置です。

  1. 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. 職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. 1~3までの措置と合わせて、相談者・行為者等のプライバシーを保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止

それぞれ見ていきます。

4つの分類の中で、10項目が、企業の果たさなければならない義務とされます。


事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

① 職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発すること

ハラスメント防止の啓発(教育)は、人事部門の業務に属します。

実際には、教育動画などを購入して視聴することが多いです。

残念ながら、毎年こういった教育を受けていながら平気でパワハラまがいな言動を繰り返す人が存在するのが事実です。

そして、「方針」が挙げられるように、経営トップ(社長)自らがパワハラ防止を推し進めることが肝心とされています。

とはいえ、社長自らパワハラ気質であるケースもあり、そうなるとパワハラが社内に蔓延しており、加害者・被害者が多い場合は、対策の項で述べるように、改善が困難なので早めに退職するのが良いでしょう。



② 行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること

これは、私たち人事部門の仕事です。

法令遵守が当然とされる昨今では、就業規則には当然、セクハラ・パワハラへの対応が明記されています。

それが無い会社もブラックである可能性が高いです。

相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること


相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること


これらも基本的には人事の仕事です。

企業によっては、人事部門ではなく、専用の人権啓発部門が整備されていることもあります。

私の新卒で入った会社にはありました。

活仏のような優しく温厚な方が部長だったので、誰でも相談できる体制だったと思います。

後に触れる社内通報はこちらです。

正しい手順で、対応を進めてくれるハズです。

職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を迅速かつ正確に確認すること


⑥ 速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと


⑦ 事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと


再発防止に向けた措置を講ずること


実際に問題が起こった際に、可及的速やかに動き、正しく対応しなければいけません

順番も⑤から⑧の順に進める必要があります。

とはいえ、パワハラ事案は、会社にとってもマイナスな結果を招きますので、本来すぐに対応して当然なので、この辺は法律で義務付ける必要もないように思いますが、残念ながらそうでない会社(ブラック企業)もまだまだ生き残っているのが実態です。

相談者・行為者等のプライバシーを保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止

⑨ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨労働者に周知すること

加害者に関しても、処分が確定するまでは、会社も事実を秘匿します。

転勤・降格などの処分が下れば、「やっぱりな」と皆分かってしまうことですが、それまでは口外しません。


⑩ 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

被害者は保護されるべきで、相談したことで安易に異動させたりは出来ません。

解雇などは論外です。

もちろん、人事的な判断で、被害者の方を異動させることもありますが、被害者の不利益にならない配慮が求められます。

パワハラ防止法の罰則

残念ながら、パワハラ防止法には罰則はありません
また、労働基準法(労基法)における労働基準監督署(労基署)のように、この法律を執行する確定的な行政機関はありません

ただ、直接的な労働者からの外部通報先は労基署になりますので、担当官の立ち入りがあった際に、正しく運用されていない場合は公表される可能性もあります。

パワハラの事実が公表されるような会社は、パワハラ以外にも労働環境が破綻している可能性が高いです。


法律の適用範囲の拡大

パワハラ防止法に基づくパワハラ防止措置は、大企業では2020年6月1日から義務化されていましたが、中小企業においては努力義務にとどまっていました。
そして、2022年4月1日からは中小企業にも適用対象が拡大されました。
つまり、全ての企業がパワハラ防止に努めなければならなくなったのです。

今後は罰則規定が付与されて、ブラック企業の淘汰に世の中が進んでいくことを期待しています


パワハラの具体例

それでは具体的に、どういった行為・言動がパワハラとされるのかを見ていきます。

身体的な攻撃(暴行・傷害)


殴る・蹴る・物を投げつけてぶつけるなど、です。

これは流石に、現代社会ではほとんど無くなってきています。

暴行などは、そもそも刑事事件なので、パワハラでは済まされないものです。


人事担当者からすると、刑事事件の加害者(さらに社内事案となれば尚更)は、懲戒解雇の対象になりますので、ダメ従業員を追放しやすく簡単ではあります。

懲戒解雇に関しては、↓記事で解説しています。

精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

これが一番多いと思います。

パワハラといえば、暴言や脅迫などが大半です。

人事担当者として扱うほとんどのケースがこの分野です。


具体的には、

  • 人格を否定するような言動を行う
  • 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
  • 他の従業員の前で大声での威圧的な叱責を繰り返し行う(怒鳴る
  • 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の従業員宛てに送信する

などが精神的な攻撃の典型例です。

大したミスでもない中で、昭和の名残のような怒鳴り方を再三に渡って行うのはアウトになりがちです。


とはいえ、遅刻など日本における社会的ルールを欠いた言動が複数見られ、再三に渡って注意しても、それが改善されない従業員に対して一定程度強く叱責をするようなケースは、一般的にはパワハラとはみなされません。

この辺りの匙加減が難しいところですが、グレーゾーンと呼ばれるどちらとも取れるケースが多いのが実態で悩ましいところです。

人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)


仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、集団で無視をし、職場で孤立させたりするのもパワハラの一種とされます。

そこまで多いケースではありませんが、非常に幼く、このようなネチネチしたやり方をする酷い人も、少ないながら世の中には存在します。


過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

  • 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
  • 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
  • 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる

ブラック企業でありがちなパワハラです。

こうした上司が複数いる企業も、基本的には改善困難なので、早めの脱出をおすすめします。


過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

  • 管理職である労働者を退職させるため、簡単な業務を行わせる
  • 気にいらない労働者に対して、嫌がらせとして仕事を与えない

↓記事のように、退職勧奨の場合もありますので、パワハラとしての事件性が低いケースです。

気にしなければ、業務時間中にネットサーフィンを楽しんでも、転職活動を始めても良いと思います。


個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

  • 部下を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
  • 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の余り人に知られたくないような個人情報について、了解を得ずに他の従業員に暴露する

昨今、個人主義が広がり、こうした事案も少しずつ増えて来ています。

継続的に、本人が望まない飲み会に連れて行くようなことも、最近ではパワハラの一種と捉えられやすくなってきています。


従業員側に出来るパワハラへの対策

最後にパワハラへの具体的な対策を見ていきます。

証拠の確保

これが、内部・外部に通報するときのカギとなりますので、パワハラと考えられる事態に巻き込まれている場合は、まず証拠を集めるべきです。

酷い叱責・罵倒・人格否定などが続いている場合は、いつ、どこで、どのように言動・行為を受けたかを細かくメモを残しましょう

スマホのメモアプリなどが便利だと思います。

可能であれば、スマホやICレコーダーで録音・録画をするのが一番ですが、これはなかなか難しいと思います。


しつこく罵声を浴び続けているようなら、対抗手段として「今から録音します」とスマホを出すのも手です。

基本的にはパワハラを行う加害者も、処分を恐れて、ハラスメントを続けることはないでしょう。

それでも続けるようなら、労基署やマスコミに持って行けば良いでしょう。

上手くすれば加害者を破滅させることが出来るので、その程度の復讐は社会的にもあってよいと思います。

内部通報

上で見ましたが、社内の通報制度を利用するのが我々人事担当者としては一番助かります

加害者をしっかり処罰し、会社としてのダメージも少ないです。

労働組合が強い会社であれば、会社の内部通報ではなく、労働組合にチクるのも有効です。

組合が動くと、会社も動かざるを得なくなりますので。


大手企業の子会社に所属しているのであれば、親会社の労働組合に通報すると、大きく改善されることも多いです。

親会社の労働組合は、親会社の人事部に是正勧告をしますので、すぐ子会社に立ち入り検査等をすることになります。

私の友人が以前、そんなことをやらかして、サービス残業が無くなり、有給休暇全消化が可能になったことがあります

親会社がホワイト企業で、子会社がブラック企業であれば、そんな一発逆転もあり得ます。


外部通報

労基署マスコミに話(証拠)を持って行くのは、状況にもよりますが、一つの解決策です。

個人的には、面倒な仕事が増えるので、内部通報にして頂きたいのが本音です。笑

とはいえ、内部通報で解決しそうもない会社も世の中にはありますので、そんな会社であれば遠慮なく外部にリークするのが良いでしょう。

事件性があれば、労基署もすぐに動いてくれます。


なお、権利主張が強く、社会通念上大したことでもないのに「パワハラだ!」と騒ぐタイプの従業員も一定程度います。

そんな場合は、会社から事前に労基署に相談します。

思い込みが強いタイプとして、労基署の方も余り相手にしませんので、ちゃんと通報に値するだけの証拠を持って通報しないと、迷惑な人として、労基署のブラックリストに載るだけです。


退職

最後の手段としては退職になるでしょう。

パワハラが社風のようなブラック企業は、早めに撤退して生活を立て直すのが良いです。

そういう会社は辞める際にも、ハラスメントを前面に出し、なかなか辞められない、残った年次有給休暇が消化出来ないなど、ブラックな傾向が強いので、プロの退職代行サービスの利用をオススメします。

サービス残業の残業代の請求や、有給休暇のフル取得後の退職も可能です。

退職代行ガーディアンは、法的に問題のない合同労働組合ですので、安心して任せられます。

退職代行サービスについての詳細は↓記事を是非ご覧ください。

↓記事は、いざ辞めて転職となったら、転職エージェントのサービスを受けるのがマストですので、年代別・年収別・地域別にオススメできるエージェントの解説です。



以上、パワハラについて人事担当者の視点から考察しました。

パワハラに悩む方々の参考になれば光栄です。

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地元駅弁→大手企業人事担当者→バックパッカー→海外転職(人事マネージャー)→コロナで地元に帰って中小企業の人事担当者
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